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作品 [その他]

2015031601.jpg
(FUJIFILM X100s / adobe Lightroom5.7)

 

 

 

私には、子ども風に言えば、「宝物」、が幾つかある。

その一つに銅版画がある。
一辺10センチに満たない小さな版画である。

私は19歳の時に幼馴染みの親友を突然の不慮の事故で失った。
彼は漫画家を夢見ていたが、高校卒業後地元の美術系専門学校に通っていた。
そして、学校の友人達と「日の出の色」を見に行き、そのまま帰らぬ人となった。
一周忌の過ぎた後、彼の生きた証を見てもらおうと、彼の遺したデッサンや版画など
の作品を展示する遺作品展を企画した。
彼のご両親の支援のもと、専門学校の同級生と二人で色々と準備をして開催した。
そして、作品展終了後ご両親から尽力のお礼と形見分けとしていただいたのがこの
版画である。
つげ義春の「ゲンセンカン主人」の一コマの模写なのだが、画面の中の男性の後ろ姿
が、背格好と言い、ちょっと猫背な雰囲気が彼を思わせるとても良い絵だ。
だが、厳密に言うとこれはオリジナルではない。
私に贈るためにご両親が専門学校の友人に依頼して新たに刷ったものである。
版は当然、彼の手による。
しかし、刷りにおいてこのケースでは彼の意思は反映されていない。
友人がオリジナルを観察して、”同じように調色”したインクで刷られている。
だからと言って軽んじている訳ではない。
これは間違いなく彼の作品だ。
だからこそ、私の宝物なのだ。
自分の撮った写真は一枚も飾っていないのに、この銅版画は常にリビングにある。

この遺作品展の時、私の友人が冗談で言った。
「エイちゃんが死んだら、ワシが遺作品展をヤっちゃる。」
この冗談に私はまじめに返した。
「ネガしか残ってないものを出さんでくれ。」

写真とは撮って終わりの行為ではない。

現像、プリントの諸段階で作者の意思が色濃く出るはずである。
フィルム現像で使う現像液の銘柄、そのまま使うのか希釈するのか。
液温と現像時間など自分のスタイルがあった。
焼きの時もそうだ。
テストプリントの後一発で決まるプリントなんて無い。
何度か調整をするし、挙句の果てには現像液のパッドの中に手を入れ、「出てこい、
出てこい。」と撫で回す始末。(笑)

昨今、写真の世界はデジタル中心である。
銀塩の感材やケミカルは値上がり一方、今後もデジタルの覇権は進むであろう。
自分もそうだ。今やメインの環境はデジタルだ。
フィルムは時々思い出したように使うぐらいで、それもC-41処理できるモノクロフィルム
を使うなんちゃって銀塩。
しかも、現像はDPE店で自動現像機のお世話になっている。
自分の手を離れる工程が存在している。

デジタル環境では全ての段階において私の意思が反映されている。
そして、作品発表の場はこのブログである。

でも、ちょっとマテ。

私の目の前にあるモニターと、ネットの向こう側の閲覧者のモニターは違うのである。
明るさはもちろん、色味も違うかもしれない。
節操なく撮った写真でも、一応、RAW現像だったりレタッチだったりと手をかけ、「作品」
として発表している。
どう見えているのか分からないけど発表している。
手法として否定するものではない。
今の時代の発表とはこういう事なのかもしれない。

紙の上に表現する方法としては、デジタル環境ではインクジェットなどのプリンターに
依ることになる。
先のなんちゃって銀塩でも、ネガからはスキャンしてレタッチ後作品化する。
プリントするとしたらプリンターの出番である。
私は、専用のツールを用いてモニターのキャリブレーションを定期的に行っている。
なので私のモニターで見た写真は、概ねそのまま出力される環境にある。
ならば、私が現像、レタッチしたあとの写真は私が居なくとも全く同じものが出力されるが
それは私の作品なのか。
しかし、段階としてはすでに完成している。
誰かが私の作風を観察して、”同じように調色”したものではない。
全く同じものが私の意思のないところで出力可能なのだ。
と言うことは、私の作品とは0と1の集合体のデータそのものなのか?


それは違う。


もしそうであるのなら、寂しすぎる。

 

 

全く整理のついていない駄文、長文失礼しました。
「作品」とは何なのか?
色々と想いを巡らせている最中です。

ここまでありがとうございました。

今日の内容と写真は全く無関係でした。(汗)

 

 

 


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コメント 2

JUNKO

いいお話を聞かせていただきました。普段のブログでは寡黙で多くを語らないicarusさんの心の一端を知った気がします。後半の写真についての思いは同感です。
by JUNKO (2015-03-17 21:13) 

icarus

>JUNKOさん
ちょっと前から何やらモヤモヤしているのです。(汗)
by icarus (2015-03-22 00:59) 

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